朝7時の改札を抜けると出汁が香る——再開発に沸く2026年の四国玄関口で、なぜ「めりけんや」の一杯が旅人と地元民の胃袋を掴んで離さないのか【現地ルポ】
め り けん や 高松 駅前 店の暖簾をくぐると、濃密なイリコの湯気が一気に視界を白く染めた。午前7時05分。夜行寝台特急「サンライズ瀬戸」が高松駅のホームに滑り込んでから、わずか十数分後の光景だ。キャリーケースを引く旅行者と、作業着姿の港湾労働者、そして出勤前のビジネスパーソンが何の境目もなくカウンターに並び、手際よく麺を啜っている。讃岐の朝は早い。だが、ここ駅前の一角に漂う熱気は、単なる「朝食需要」という言葉では片付けられない特異な引力を放っている。
瀬戸内国際芸術祭の余韻と新駅ビル開業による再開発で街の景観が一変した2026年現在も、め り けん や 高松 駅前 店が放つローカルな日常感は寸分も揺らいでいない。巨大な再開発エリアの真向かいで、毎朝途切れることなく沸き立つ大釜。なぜこの店は、無数の名店がひしめくうどん王国・香川において、玄関口のランドマークであり続けられるのか。早朝の厨房と客席のざわめきに身を投じ、その理由を探った。
サンライズ瀬戸の終着地で出逢う、湯気とイリコの洗礼
東京から約9時間半。終点・高松駅に降り立った乗客が真っ先に向かう場所は、もはや決まっていると言っていい。駅前広場を横切って徒歩1分もかからないロケーションは、長旅で乾いた胃袋にとって抗いがたい磁場だ。
丼を受け取り、琥珀色のダシを注ぐ。立ち上る香りは、伊吹島産イリコ特有の上品で力強い旨味そのものだ。化学調味料でごまかさない、骨太な海のミネラルが喉を潤す。ひと口すするだけで、夜行列車で強張った身体が芯からほどけていくのが分かる。観光地化された過剰な演出はない。そこにあるのは、移動の疲れを瞬時にリセットする純度の高い一杯だ。
7割の客が頼む「肉うどん」と揚げたて天ぷら——早朝厨房の職人技
カウンター越しに覗く厨房では、寸分の無駄もない連携プレーが繰り広げられていた。麺を茹で上げ、冷水で締め、完璧なタイミングで丼へと流し込む。注文が集中するのは、甘辛く煮込まれた牛肉が惜しげもなく盛られた「肉うどん」だ。
牛肉から染み出す脂の甘みと、キリリとエッジの立ったイリコ出汁が混ざり合う瞬間。このハイブリッドな旨味こそが、常連客の箸を加速させる正体だ。さらにサイドメニューの主役である「半熟たまご天」や「讃岐名物ちくわ天」は、保温器に並ぶ暇もないほどのスピードで揚げたてが追加されていく。サクッとした衣の音と、もっちりした麺の弾力。午前8時前、店内は小気味よい咀嚼音で満たされる。
駅ビル「高松オルネ」開業後も揺るがない、讃岐うどんのリアル
高松駅周辺はここ数年で激変した。駅ビル「高松オルネ」の誕生や新アリーナの稼働に伴い、洗練されたモダンなカフェや全国チェーンが次々と軒を連ねるようになった。だが、どれほど駅前が都会的な装いをまとおうとも、この店の空気感だけは独立したサンクチュアリのように保たれている。
セルフレーンを進み、好みの天ぷらを取り、最後にネギと生姜をセルフでのせる。精算を終えてから食べ終わるまで、わずか7〜8分。この無駄のないリズムは、香川県民のDNAに刻まれた生活様式そのものだ。近代的な商業施設がどれだけ便利になろうと、地元の人々が求める「気取らない日常」は、この暖簾の奥にしか存在しない。
「早い・安い」の先にある小麦の弾力——製麺への静かな矜持
ファストフード感覚で利用できるセルフうどん店でありながら、麺のクオリティに対する妥協は一切見当たらない。箸で持ち上げたときに感じる確かな重みと、噛み締めた瞬間に押し返してくるしなやかなコシ。
めりけんやの麺は、単に硬いだけの「剛麺」とは一線を画す。外側は滑らかで喉越しがよく、中心部にしっかりと密度のある弾力を残す絶妙な茹で加減だ。小麦の香りが噛むほどに広がり、出汁の塩気と美しく調和する。駅前という超好立地に甘んじることなく、麺の鮮度管理を徹底している職人たちの静かな意地が、この歯ごたえに凝縮されている。
島巡りフェリー前の黄金ルート、地元客と旅人が交錯する止まり木
高松港から直島や小豆島へ向かうフェリーの出港前、朝の港町特有の澄んだ空気の中でうどんを啜る時間は、瀬戸内を旅する者にとって最高のプロローグになる。
店内を見渡せば、隣の席では出勤前のサラリーマンがスポーツ紙を片手に「かけ(小)」を一気に流し込み、その向こうではバックパックを背負った欧米人観光客が「ぶっかけ(冷)」のコシに目を丸くしている。言葉は交わさずとも、同じ出汁の湯気を共有する不思議な一体感。旅と日常の境界線がふわりと消えるこの空間こそが、高松という街の懐の深さを物語っている。
2026年の讃岐麺カルチャーを象徴する「駅前1分」の生存戦略
地方都市の駅前再開発が進むにつれ、全国どこへ行っても同じようなチェーン店ばかりが並ぶ均質化が懸念されている。しかし高松駅前において、その危惧は杞憂に過ぎない。
本物のローカルフードが駅の一等地に根を張り、地元民の日常食として機能し続けている限り、都市のアイデンティティが失われることはないだろう。めりけんやの暖簾をくぐることは、単なる食事を超えて、讃岐という土地の呼吸に直接触れる体験なのだ。今日新幹線や飛行機を乗り継いで高松へ降り立つ人も、あるいは日々の仕事に向かう人も、まずはこの一杯から始まる。 (出典: め り けん や 高松 駅前 店(Yahoo!ニュース))